「き・けり」

要点確認
「き・けり」の意味
」の意味
体験過去〈~た〉自分が直接体験した過去。
(例)草の根を食ひ物とし草の根を食べ物とし
けり」の意味
伝聞でんぶん過去〈~た・~たそうだ〉他人から伝え聞いた過去。
(例)竹取の翁といふ者ありけり竹取の翁という者がいたそうだ
詠嘆えいたん〈~だなあ・~ことよ〉ある事実に気づいたときの気持ち。
(例)都ぞ春の錦なりける都こそが春の錦であるのだなあ
「き・けり」の活用
」の活用……特殊型
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
(せ)しか
けり」の活用……ラ変型
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
けり(けら)けりけるけれ
「き・けり」の接続
き・けり」の接続……連用形接続
「き」のカ変・サ変への接続は特殊。
解説

「き・けり」の意味

」と「けり」は、どちらも過去の助動詞ですが、意味が少し違います。

(一)「き」の意味

「き」は、自分が直接体験した過去のこと=体験過去を表し、〈~た〉と訳します。
ある時にはかて尽きて、草の根を食ひ物とし(竹取)
ある時には食糧が底をついて、草の根を食べ物とし
「き」には、自らが体験した事実ではないが、確かにあったといえる過去(確実過去)を表す用法もあります。
(例)いにしへにありあらずは知らねども千歳ちとせのためし君にはじめむ(古今)
昔にもあったかどうかは知りませんが、千歳生きた例をあなたからはじめましょう。

(二)「けり」の意味

「けり」には、伝聞過去と詠嘆の二つの意味があります。
伝聞でんぶん過去は、自分が直接体験したのではない、他人から伝え聞いた過去のことを表し、〈~た・~たそうだ〉と訳します。
今は昔、竹取たけとりおきなといふ者ありけり(竹取)
今となっては昔のことだが、竹取の翁という者がいた(そうだ)
この意味の「けり」は、物語のの文で多く使われます。
もう一つの意味の詠嘆えいたんは、それまで意識していなかった事実に今はじめて気づいたという気持ちを表し、〈~だなあ・~ことよ〉などと訳します。(詠嘆は、「気づき」ともいいます。)
見渡せば柳桜やなぎさくらをこきまぜて都ぞ春のにしきなりける(古今)
見渡してみると、柳の葉と桜の花とが混ぜ合わさって、都こそが春の錦であるのだなあ
「けり」には過去と詠嘆の二つの意味がありますが、その見分けが問題になります。
まず、右の例のように、和歌の中で使われている「けり」は詠嘆を表します。
その他の場合は文脈で判断しますが、会話文中の「けり」は詠嘆を表す傾向があります。
(例)「あさましう、犬なども、かかる心あるものなりけり」と笑はせ給ふ。(枕)
「驚いたことに、犬なども、このような心があるものなのだなあ」と、お笑いになる。

「き・けり」の活用

「き」と「けり」は、それぞれ活用のしかたが違います。

(一)「き」の活用

「き」は、特殊な活用のしかたをします(特殊型)。そのまま覚えましょう。
〔表〕「き」の活用表
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
(せ)しか
未然形「」は、「せ」+「ば」(接続助詞)の形でのみ使われます。
せば」は、反実仮想(もし~だったならば)を表し、「~せば、……まし」の形で用いられます。🔗「まし」
(例)世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(古今)
世の中にまったく桜がなかったとしたら、春の人々の心はもっと穏やかであっただろうに

(二)「けり」の活用

「けり」は、動詞のラ行変格活用と同じ活用をします(ラ変型)。ただし、連用形と命令形がありません。🔗動詞―ラ行変格活用
〔表〕「けり」の活用表
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
けり(けら)けりけるけれ
未然形「けら」は、上代(奈良時代)に「けら―ず」「けら―く」の形で使われました。

「き・けり」の接続

「き」と「けり」は、どちらも活用語の連用形に付きます。
ただし、「き」がカ変動詞「来(く)」やサ変動詞「す」に接続する場合は特殊です。

(一)「き」がカ変動詞に接続する場合

「き」の連体形「」と已然形「しか」は、カ変動詞の未然形「こ」に付きます。(カ変動詞の連用形「き」に付くこともあります。)🔗動詞―カ行変格活用
ただし、終止形「」は、カ変動詞には付きません。
〔図〕助動詞「き」のカ変動詞接続
助動詞「き」のカ変動詞接続

(二)「き」がサ変動詞に接続する場合

「き」の連体形「」と已然形「しか」は、サ変動詞の未然形「せ」に付きます。🔗動詞―サ行変格活用
もっとも、終止形「」は、サ変動詞の連用形「し」に付きます。
〔図〕助動詞「き」のカ変動詞接続
助動詞「き」のサ変動詞接続