「む・むず」

要点確認
「む・むず」の意味
推量すいりょう〈~だろう〉
(例)香炉峰の雪いかならむ。〈香炉峰の雪はどのようだろう。〉
意志〈~う・~よう〉
(例)思ひ出にせむ。〈思い出にしよう。〉
適当・勧誘〈~のがよい・~ませんか〉
(例)命長くとこそ思ひ念ぜめ。〈長生きしようと一心に祈るがよい。〉
仮定・婉曲えんきょく〈(もし)~としたら・~ような〉
(例)思はむ子を法師になしたらむこそ〈大切に思うような子を法師にしてしまったとしたら〉
「む・むず」の活用
㈠「む」の活用……四段型
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
む
(ん)
○○む
(ん)
む
(ん)
め○
㈡「むず」の活用……サ変型
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
むず
(んず)
○○むず
(んず)
むずる
(んずる)
むずれ
(んずれ)
○
「む・むず」の接続
・「む・むず」の接続……未然形接続
解説

「む・むず」の意味

「む・むず」は、推量の助動詞です。推量のほかにも、多くの意味を持ちます。

(一)推量

推量すいりょうは、「む・むず」の基本的な意味であって、〈~だろう〉などと訳します。
推量の場合、主語は主に三人称になります。
少納言せうなごんよ、香炉峰かうろほうの雪いかならむ。(枕)
〈少納言よ、香炉峰の雪はどのようだろう。〉
かのもとの国より、迎へに人々まうで来こむず。(竹取)
〈(私を)迎えに人々がやってくるでしょう。〉

(二)意志

意志すいりょうは、〈~う・~よう〉と訳します。
意志の場合、一人称(話し手・書き手)が主語になります。
散りぬとも香かをだに残せ梅の花恋しき時の思ひ出にせむ (古今)
〈……恋しい時の思い出にしよう〉
われは、しかじかのことのありしかば、そこに建てむずるぞ。(大鏡)
〈……そこに建てよう。〉

(三)適当・勧誘

適当てきとう・勧誘かんゆうは、〈~のがよい・~ませんか〉と訳します。
適当・勧誘は、次の例文のように、係助詞「こそ」の結びとなったり、「てむ・なむ」の形になったりすることが多い用法です。
命長くとこそ思ひ念ぜめ。(源氏)
〈長生きしようと一心に祈るがよい。〉
忍しのびては参りたまひなむや。(源氏 )
〈……こっそりとぜひ参内なさいませんか。〉

(四)仮定・婉曲

仮定かてい・婉曲えんきょくは、〈(もし)~としたら・~ような〉と訳します。
婉曲は、断定をさけて遠回しに言うための表現です。ふつうは〈~ような〉と訳しますが、無理に訳さないときもあります。
〔む+体言〕や〔む+助詞〕、〔む+、〕の形になる場合、「む」は仮定・婉曲を表します。
思はむ子を法師ほふしになしたらむこそ、心苦しけれ。(枕)
〈大切に思うような子を法師にしてしまったとしたら、それは気の毒だ。〉
さる所へまからむずるも、いみじくも侍はべらず。(竹取)
〈そのような所へ参る(ような)ことも……〉
「む・むず」の意味は多いので、それらの見分け方が問題になります。
その際、文の主語や、「む・むず」の文中での用法が手がかりとなります。
①主語の人称に着目する。
・主語が一人称→意志が多い
・主語が二人称→適当・勧誘が多い
・主語が三人称→推量が多い
②文中で〔む+体言〕、〔む+助詞〕、〔む+、〕の形で使われている場合→仮定・婉曲。

「む・むず」の活用

「む」と「むず」は、それぞれ活用のしかたが違います。

(一)「む」の活用

「む」は、動詞の四段活用と同じような活用をします(四段型)。ただし、未然形・連用形・命令形がありません。🔗動詞‐四段活用
〔表〕「む」の活用表
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
む
(ん)
○○む
(ん)
む
(ん)
め○
「む」は、中世(鎌倉時代)になってから「ん」と表記されるようになりました。
現代語の感覚に引きずられて、「ん」を打消(~でない)の意味ととらえてしまわないように注意しましょう。
古語の「ん」は推量であって、打消の意味で使われることはありません。

(二)「むず」の活用

「むず(んず)」は、動詞のサ行変格活用と同じ活用のしかたをします(サ変型)。ただし、ただし、未然形・連用形・命令形がありません。🔗動詞ーサ行変格活用
〔表〕「むず」の活用表
基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形
むず
(んず)
○○むず
(んず)
むずる
(んずる)
むずれ
(んずれ)
○
「むず」も、中世(鎌倉時代)以降、「んず」と表記されるようになります。
「むず」は、「むとす」の形が変化したものです。
む+と+す(サ変動詞)→むず
接続が「む」と同じ未然形であることや、「む」と違って活用がサ変型であることは、この語源から理解することができます。

「む・むず」の接続

「む」と「むず」は、どちらも活用語の未然形に付きます。
「む」が他の助動詞と接続する場合、「てむ・なむ」のように「む」が最後にくる形になります。