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「む・むず」

要点のまとめ

■ 助動詞「む・むず」

(1) 意味

① 推量(~だろう)

② 意志(~つもりだ・~う(よう))

③ 適当・勧誘(~のがよい・~しませんか)

④ 婉曲えんきょく・仮定(~ような・(もし)~としたら、その~)

(2) 活用

む(ん):四段型

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
む(ん) (ま) ○ む(ん) む(ん) め ○

むず(んず):サ変型

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形

むず

(んず)

○

○

むず

(んず)

むずる

(んずる)

むずれ

(んずれ)

○

(3) 接続 未然形

活用語の未然形に付く。

解説

いくつかある推量の助動詞のうち、このページでは「む」「むず」を取り上げて、それらの意味・活用・接続について見ていきます。

「む」と「むず」は、意味と接続のしかたは同じですが、活用のしかたが違います。

なお、「む」「むず」は、それぞれ「ん」「んず」と表記することがあります。この点については、『4 「む・むず」の表記』を参照してください。

1 意味

「む」「むず」は、多くの意味をあらわす助動詞です。意味は、大きく分けると、次のように四つに分類することができます。

(1) 推量

「む」「むず」の基本的な意味は、<~だろう>などと訳す推量です。

【例】少納言せうなごんよ、香炉峰かうろほうの雪いかならむ。(枕)

<少納言よ、香炉峰の雪はどのようだろう。>

【例】この月の十五日に、かのもとの国より、迎へに人々まうで来こむず。(竹取)

<――、(私を)迎えに人々がやってくるでしょう。>

(2) 意志

主語が話し手(一人称)であるとき、「む」「むず」は何かをしようとする意志をあらわし、<~つもりだ>または<~う(よう)>と訳します。

【例】散りぬとも香かをだに残せ梅の花恋しき時の思ひ出にせむ (古今)

<――恋しい時の思い出にしよう>

【例】われは、しかじかのことのありしかば、そこに建てむずるぞ。(大鏡)

<――、そこに建てるつもりだ。>

(3) 適当・勧誘

主語が聞き手(二人称)であるとき、「む」「むず」は、「(あなたにとって)そうするのがよい(そうするべきだ)」という意味をあらわします。

「そうするのがよい」を、文脈にあわせたニュアンスの意味になるように直すと、<~のがよい>(適当)、<~しませんか>(勧誘)、<~してください>(丁寧な命令)、<~べきだ>(当然)という訳(意味)になります。

訳し方や細かい意味の分類は、人によって様々です。適当・勧誘などは「そうするのがよい」という意味であると大まかに理解しておいてよいでしょう。そのため、ここでは「適当・勧誘」と一括ひとくくりにして呼んでいます。

【例】命長くとこそ思ひ念ぜめ (源氏)

<長生きするようにと心の中で祈るがよい。>

【例】敵かたきすでに寄せ来きたるに、方々かたがたの手分けをこそせられんずれ。(保元)

<――、あちこちの軍勢配置をなさるのがよい。>

「む」「むず」が適当・勧誘の意味で用いられる場合、上の例文のように、係助詞「こそ」の結びとなることが多くあります(已然形「め」「むずれ」になる)。

ただし、「こそ」と係り結びになっているからといって、つねに適当・勧誘の意味で用いられるとはかぎりません。次の例文の「め(む)」は、意志をあらわしています。

【例】男をとこはこの女をんなをこそ得えめと思ふ。(伊勢)

<男は、この女を(妻として)手に入れようと思う。>

(4) 婉曲えんきょく・仮定

「む」「むず」には、<~ような>と訳す婉曲の意味や、<(もし)~としたら、その~>などと訳す仮定の意味もあります。

婉曲は、物言いを柔らかくするするために推量で言う表現方法です。現代語にするときの一般的な訳し方は<~ような>ですが、それだと不自然になるような場合には無理に訳する必要はありません。

【例】思はむ子を法師ほふしになしたらむこそ、心苦しけれ。(枕)

<大切に思うような子を法師にしてしまったとしたら、それは気の毒だ。(前者が婉曲、後者が仮定)>

【例】さる所へまからむずるも、いみじくも侍はべらず。(竹取)

<そのような所へ参る(ような)ことも、うれしくもございません。>

また、婉曲の「む」「むず」は、それを仮定で訳してみても意味内容がほとんど変わらない場合があります。そのような場合、同じ表現を婉曲と仮定のどちらでも訳することができます。それゆえ、ここでは「婉曲・仮定」と一括りにしています。

【例】いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。(枕)

<間もなく秋風が吹くような時にくるつもりだ。(婉曲)>

<間もなく秋風が吹くとしたら、その時にくるつもりだ。(仮定)>

婉曲・仮定の「む」「むず」は、連体形になります。

文中の「む」の直後に名詞が付くか、または、訳すときに名詞を補うようなとき、その「む」は連体形です。

(5) 意味の見分け方

「む」「むず」は多くの意味をもつ助動詞ですから、ある文中の「む」「むず」がどの意味をあらわしているかを見分ける方法が問題となります。

「む」「むず」の意味を見分けるには、まず、「む」「むず」の主語が誰・何なのかに着目します。

すなわち、主語が話し手・書き手(一人称)であれば意志、主語が聞き手・読み手(二人称)であれば適当・勧誘、主語がそれら以外のもの(三人称)であれば推量であると、一応考えることができます。

ただ、この主語の人称による見分け方は、かならずしもすべての場合にあてはまるわけではありません。主語によって「む」「むず」の意味の見当をつけることはできますが、それで間違いないかどうかは文脈に当てはめて判断するようにします。

*

次に、「む」「むず」の活用形から意味の見当をつけることもできます。

係助詞「こそ」の結びとなっている已然形の「め」「むずれ」は適当・勧誘であり、婉曲・仮定の「む」「むず」は連体形になります。連体形は、直後に名詞があるか補える形です。

古文のコツ★「む・むず」の意味の見分け方

① 主語の人称にんしょうによって見分ける

主語が一人称 → 意志

主語が二人称 → 適当・勧誘

主語が三人称 → 推量

② 活用形によって見分ける

係助詞「こそ」の結びの已然形 → 適当・勧誘

連体形 → 仮定・婉曲

2 活用

「む(ん)」と「むず(んず)」とでは、それぞれ活用のしかたが異なります。

「む(ん)」は、動詞の四段活用と同じような活用のしかたをします(四段型)。ただし、連用形と命令形はありません。

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
む(ん) (ま) ○ む(ん) む(ん) め ○

未然形の「ま」は古い言い方で、「ま」+「く」(名詞をつくる接尾語)の形で用いられました。(なお、希望の助動詞「まほし」の語源は、この「まく」+「欲し」(形容詞)です。)

○ 老いぬればさらぬ別れのありといへばいよいよ見まくほしき君かな (伊勢)

<――ますます会いたいあなたですよ>

已然形「め」の古い用法に、「め」+係助詞「や・か」+終助詞「は・も」の形で反語(~だろうか、いやそんなことはない)をあらわすものがあります。(已然形には、これ以外の用法もあります。)

○ 種しあれば岩にも松は生ひにけり恋ひをし恋ひば逢わざらめやも (古今)

<――恋をし続ければ(恋人に)会わないということがあろうか(、いや会うに違いない)>

*

「むず(んず)」は、動詞のサ変と同じような活用のしかたをします(サ変型)。ただし、未然形・連用形・命令形はありません。(サ変型である理由については、下の『もっと知る』を参考にしてください。)

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形

むず

(んず)

○ ○

むず

(んず)

むずる

(んずる)

むずれ

(んずれ)

○

もっと知る◆「むず」の語源

「むず」という語は、上代(奈良時代)に「むとす」であったものが、中古(平安時代)になって「むず」に形が変化したものです。

「むず」の語源である「むとす」は、「む」(助動詞)+「と」(助詞)+「す」(サ変動詞)という3語から成り立っています。

「むず」は、接続が「む」と同じ未然形であることや、「む」と違って活用がサ変型であることは、この成り立ちから理解することができます。

なお、「むず」は、それが生まれた中古には、品の悪い話し言葉とされていて、文章に用いるべきではない言葉とされていました。したがって、中古では、会話文にしか現れません。しかし、中世前期(鎌倉時代)になると多く用いられるようになります。

3 接続

「む」「むず」は、どちらも活用語の未然形に付きます。

「む」は、他の助動詞と接続する場合、「てむ」「なむ」のように「む」が最後にくる形になります。「む」が他の助動詞の前につくことはありません。

4 「む・むず」の表記

「む」は、中古(平安時代)に「ン」と発音するようになり(表記は「む」のまま)、中世(鎌倉時代以降)になってからは「ん」と表記されるようになりました。

さらに、「ん」の発音・表記が「う」に変化して発音が長母音となり、ここから現代語の助動詞「う」「よう」が生じました。

あらむ(アラン) → あらん → あらう(アロー) → あろう

せ(為)む(セン) → せん → せう(ショー) → しよう

「むず」も、「む」と同様に、中世以降は「んず」と表記されるようになります。

もっと知る◆「ん」の意味

たとえば「そうはさせん」「うまくできん」というように、現代の日本語では、打消の意味で「ん」をよく使っています(現代語の助動詞「ぬ(ん)」)。

しかし、これは比較的最近の「ん」の用法であって、古語では打消の意味で「ん」を用いることはありません。

古語の「ん」は、推量の意味であると知っておきましょう。

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