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「む・むず」

要点のまとめ

■ 「む・むず」の意味

① 推量<~だろう>

(例) 香炉峰の雪いかならむ。<香炉峰の雪はどのようだろう。>

② 意志<~う(よう)>

(例) 思ひ出にせむ <思い出にしよう>

③ 適当<~のがよい>・勧誘<~しませんか>

(例) 命長くとこそ思ひ念ぜめ。<長生きしようと一心に祈るがよい。>

④ 婉曲えんきょく<~ような>・仮定<(もし)~としたら>

(例) 思はむ子を法師になしたらむこそ <大切に思うような子を法師にしてしまったとしたら…>

■ 「む・むず」の活用

「む(ん)」:四段型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
〇 〇 む(ん) む(ん) め 〇

「むず(んず)」:サ変型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
〇 〇 むず
(んず)
むずる
(んずる)
むずれ
(んずれ)
〇

■ 「む・むず」の接続

どちらも活用語の未然形に付く。

解説

1 「む・むず」の意味

「む」と「むず」は、推量の助動詞です。推量のほかにも、多くの意味を持ちます。

(1) 推量

「む」「むず」の基本的な意味は推量で、<~だろう>などと訳します。

少納言せうなごんよ、香炉峰かうろほうの雪いかならむ。(枕)

<少納言よ、香炉峰の雪はどのようだろう。>

かのもとの国より、迎へに人々まうで来こむず。(竹取)

<(私を)迎えに人々がやってくるでしょう。>

(2) 意志

主語が話し手・書き手(一人称)であるとき、「む」「むず」は何かをしようとする意志を表し、<~う(よう)>と訳します。

散りぬとも香かをだに残せ梅の花恋しき時の思ひ出にせむ (古今)

<恋しい時の思い出にしよう>

われは、しかじかのことのありしかば、そこに建てむずるぞ。(大鏡)

<そこに建てよう。>

(3) 適当・勧誘

主語が聞き手・読み手(二人称)であるとき、「む」「むず」は、<~のがよい>と訳す適当や、<~しませんか>と訳す勧誘を表します。

適当・勧誘は、次の例文のように、係助詞「こそ」の結びとなったり、「てむ」「なむ」の形になったりすることが多い用法です。

命長くとこそ思ひ念ぜめ。(源氏)

<長生きしようと一心に祈るがよい。>

敵かたきすでに寄せ来きたるに、方々かたがたの手分けをこそせられんずれ。(保元)

<あちこちの軍勢配置をなさるのがよい。>

(4) 婉曲えんきょく・仮定

「む」「むず」には、<~ような>と訳す婉曲の意味や、<(もし)~としたら>と訳す仮定の意味もあります。

婉曲は、断定をさけて遠回しに言う表現です。ふつうは<~ような>と訳しますが、無理に訳さないこともあります。

婉曲・仮定の「む」「むず」は、連体形になります。文中の「む」「むず」の直後に名詞が付くか、または、訳すときに名詞を補うようなときが連体形です。

思はむ子を法師ほふしになしたらむこそ、心苦しけれ。(枕)

<大切に思うような子を法師にしてしまったとしたら、それは気の毒だ。>

さる所へまからむずるも、いみじくも侍はべらず。(竹取)

<そのような所へ参る(ような)ことも>

同じ表現を婉曲と仮定のどちらでも訳すことができる場合もあります。

いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。(枕)

<間もなく秋風が吹くような時に来るつもりだ。(婉曲)>

<間もなく秋風が吹くとしたら、その時に来るつもりだ。(仮定)>

アドバイス

「む」「むず」は多くの意味をもつので、その意味を見分ける必要があります。

ふつうは、次のようにして見分けます。

① 文中での位置と活用形によって大きく分ける。

文の途中にあって連体形 → 仮定・婉曲

それ以外 → 推量・意志・適当・勧誘

② 推量・意志・適当・勧誘は、主語の人称にんしょうを手がかりにして文脈で判断する。

主語が一人称 → 意志が多い

主語が二人称 → 適当・勧誘が多い

主語が三人称 → 推量が多い

2 「む・むず」の活用

「む」と「むず」は、それぞれ活用のしかたが異なります。

(1) 「む(ん)」の活用

「む(ん)」は、動詞の四段活用と同じ活用をします(四段型)。ただし、未然形・連用形・命令形はありません。➡動詞(2)四段活用

【表】「む」の活用表

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
む(ん) 〇 〇 む(ん) む(ん) め 〇

*

「む」は、中古(平安時代)に「ン」と発音するようになり、中世(鎌倉時代)になってから表記も「ん」になりました。

さらに、「ん」の発音・表記が「う」に変化して、ここから現代語の助動詞「う」「よう」が生じました。

・あらむ(アラン)→あらん→あらう(アロー)→あろう
・せ(為)む(セン)→せん→せう(ショー)→しよう

「むず」も、同様に、「んず」と発音・表記されるようになりました。

もっと知る

たとえば「そうはさせん﹅」「できません﹅」というように、現代語では打消の意味で「ん」をよく使用します(現代語の助動詞「ぬ(ん)」)。

しかし、これは比較的最近の「ん」の用法であって、古語では打消の意味で「ん」を用いることはありません。古語の「ん」は、推量です。

(2) 「むず(んず)」の活用

「むず(んず)」は、動詞のサ行変格活用と同じ活用のしかたをします(サ変型)。ただし、未然形・連用形・命令形はありません。➡動詞(8)サ行変格活用

【表】「むず」の活用表

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
むず
(んず)
〇 〇 むず
(んず)
むずる
(んずる)
むずれ
(んずれ)
〇
もっと知る

「むず」は、「むとす」であったものが、「むず」に形が変化したものです。

・む助動詞+と助詞+すサ変動詞 → むず

「むず」は、接続が「む」と同じ未然形であることや、「む」と違って活用がサ変型であることは、この語源から理解することができます。

3 「む・むず」の接続

「む」と「むず」は、どちらも活用語の未然形に付きます。

「む」は、他の助動詞と接続する場合、「てむ」「なむ」のように「む」が最後にくる形になります。「む」が他の助動詞の直前に付くことはありません。

練習問題

準備中

コメント

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コメント: 5
  • #1

    ^_^ (日曜日, 27 11月 2022 18:03)

    分かりやすいです!助かりました!ありがたい

  • #2

    モトサカ (水曜日, 30 11月 2022 10:20)

    わかりやすくてありがとうございます。

  • #3

    みねg (水曜日, 30 11月 2022 10:21)

    モトサカさんのおっしゃる通りです

  • #4

    あし (火曜日, 31 1月 2023 09:44)

    ありがとうございますとてもわかりやすいです

  • #5

    し (金曜日, 07 7月 2023 15:28)

    ありがとうございます♪

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