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「べし」

要点のまとめ

■ 「べし」の意味

① 推量<(きっと)~だろう・~にちがいない>

(例) 劣らざるべし。<(きっと)劣らないだろう。>

② 意志<~う(よう)・~つもりだ>

(例) この一矢に定むべしと思へ。<この一本の矢で決めようと思え。>

③ 可能<~ことができる>

(例) 渡るべからず。<渡ることができない。>

④ 当然<~はずだ・~べきだ>

(例) 子となり給ふべき人なめり。<(私の)子となりなさるはずの人であるようだ。>

⑤ 命令<~せよ>

(例) わが墓の前に懸くべし。<私の墓の前に供えよ。>

⑥ 適当<~のがよい>

(例) 夏をむねとすべし。<夏を主とするのがよい。>

■ 「べし」の活用

「べし」:形容詞(ク活用)型

未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
(べく)
べから
べく
べかり
べし
〇
べき
べかる
べけれ
〇
〇
〇

■ 「べし」の接続

活用語の終止形に付く。ただし、ラ変型活用語には連体形に付く。

解説

1 「べし」の意味

「べし」は、推量の助動詞に分類されます。

「べし」の意味は、「む」の意味を強めたもので、ふつう次のようなものが挙げられます。

(1) 推量

「べし」の推量は、「む」と比べると強い(確信をもった)推量で、<(きっと)~だろう・~にちがいない>と訳します。

この人々の深き志は、この海にも劣らざるべし。(土佐)

<…この海(の深さ)にも(きっと)劣らないだろう。>

(2) 意志

「べし」は、「む」よりも強い意志(決意)を表し、<~う(よう)・~つもりだ>と訳します。

毎度ただ得失とくしつなく、この一矢ひとやに定さだむべしと思へ。(徒然)

<…この一本の矢で(成功を)決めようと思え。>

(3) 可能

可能は、<~ことができる>と訳します。

可能の「べし」は、打消の語をともなうことがよくあります。

竜に乗らずは、渡るべからず。(今昔)

<竜に乗らなければ、渡ることができない。>

(4) 当然

当然は、<~はずだ・~べきだ・~なければならない>と訳します。

子となり給たまふべき人なめり。(竹取)

<(私の)子となりなさるはずの人であるようだ。>

(5) 命令

命令は、<~せよ・~なさい>と訳します。

頼朝よりともが首かうべをはねて、わが墓の前に懸かくべし。(平家)

<頼朝の首をはねて、私の墓の前に供えよ。>

命令の「べし」が打消の語をともなうときは、禁止(~てはならない)の意味になります。

されば、道人だうにんは、遠く日月にちげつを惜しむべからず。(徒然)

<…漠然と年月(という長さで時間)を惜しんではならない。>

(6) 適当

適当は、<~のがよい>と訳します。

家の造りやうは、夏をむねとすべし。(徒然)

<家の造りは、夏(に住むこと)を主とするのがよい。>

アドバイス

「べし」の六つの意味――推量・意志・可能・当然・命令・適当は、「す推い意か可と当め命て適」のゴロ合わせで覚えるとよいでしょう。さらに「予定」を付け加えて、「すいかとめてよ予」とすることもあります。

予定は、<~ことになっている>と訳します。

・住む館たちより出いでて、船に乗るべき所へ渡る。(土佐)

<…船に乗ることになっている所へ渡る。>

アドバイス

「べし」の意味は、複雑です。文中の「べし」がどの意味であるかを特定することが簡単でない(いずれの意味に解釈することができる)場合もあります。

一応の目安として、「む」と同じように、主語の人称にんしょうで見分けるという方法があります。主語が一人称(自分)であれば意志、二人称(相手)であれば命令または適当、三人称(第三者)であれば推量を表すというものです。

しかし、本当にその意味で正しいかどうかは、文脈に当てはめて判断する必要があります。

2 「べし」の活用

「べし」は、形容詞のク活用と同じ活用をします(ク活用型)。➡形容詞(1)ク活用とシク活用

基本形 未然形 連用形 終止形 連体形 已然形 命令形
べし (べく)*
べから
べく
べかり
べし
〇
べき
べかる
べけれ
〇
〇
〇

* 未然形「べく」は、「べくは」の形で認める考え方があります。

もっと知る

「べし」は、音便の形で用いられることがあります。

① 連用形「べく」→ウ音便形「べう(ビョウ)」

・あまた見えつる子どもに似るべうもあらず(源氏)

<…似るはずもない。>

② 連体形「べき」→イ音便形「べい」

・命こそかなひがたかべいものなめれ。(源氏)

<…思い通りにいかないにちがいないものであるようだ。>

③ 連体形「べかる」→撥はつ音便形「べかんめり」「べかんなり」

・いまいまも、さこそは侍はべるべかんめれ。(大鏡)

<…そのようであるにちがいないでしょう。>

「べかんめり」「べかんなり」は、「べかめり」「べかなり」と「ん」が抜けた形で表記されることもあります。

3 「べし」の接続

「べし」は、活用語の終止形に付きます。

ただし、ラ変型活用語に付く場合は、その終止形ではなく、連体形に付きます。

ラ変型活用語とは、ラ変動詞、形容詞、形容動詞、ラ変型の助動詞をいいます。

ラ変型活用語の連体形に付くとき、「べし」の直前の「る」が撥音便「ん」になることがあります。

もっと知る

中古(平安時代)の和歌に用いられた流行語に「べらなり」があります。(「べか﹅なり」とは異なることに注意。)

「べらなり」は、「べし」から派生した助動詞で、推量(~ようだ)を表します。

活用のしかたは形容動詞(ナリ活用)型であり、接続は「べし」と同じ終止形接続です。

・桂川わが心にもかよはねど同じ深さに流るべらなり(土佐)

<…(私の心と)同じ深さで流れているようだ>

練習問題

準備中

コメント

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コメント: 6
  • #1

    あ!�� (水曜日, 25 8月 2021)

    わかりやすいですねー

  • #2

    天才な馬鹿 (日曜日, 21 11月 2021 16:27)

    ええやんけ

  • #3

    川俣氏 (金曜日, 04 3月 2022 17:35)

    分かりやすい!

  • #4

    hey brother (月曜日, 16 5月 2022 01:09)

    ありがとう!

  • #5

    ドラゴンカー (火曜日, 13 9月 2022 19:18)

    いいね なるなる

  • #6

    サルトル (木曜日, 06 7月 2023 19:02)

    2系統の活用形は、どのように使い分けてるのでしょうか?

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