「つ」と「ぬ」は、どちらも動作・作用の完了をあらわす助動詞で、<~た・~てしまう・~てしまった>と訳します。ただし、両者には微妙な意味の違いがあります。
「つ」は、他動詞に付くことが多く、意志的に動作(状態)を完結させるというニュアンスがあります。
【例】国に立ち遅れたる人々待つとて、そこに日を暮らしつ。(更級)
<――、そこで一日を過ごした。>
これに対して、「ぬ」は、自動詞に付くことが多く、自然的に状態(動作)が実現するというニュアンスがあります。
【例】秋は来ぬ紅葉は宿に降りしきぬ道ふみわけてとふ人はなし (古今)
< 秋が来た。紅葉は庭いっぱいに散ってしまった。――>
「つ」「ぬ」は、直後に「む」「らむ」「べし」などの推量の助動詞をともなう場合、それらの意味を強める働きをします。これを強意と呼びます(確述ともいいます)。
現代語に訳すときは、「む」「べし」などがあらわす推量・意志などの意味を強調するようにします。具体的には、<きっと~・かならず~>などと副詞を補ったり、<~にちがいない・~てしまおう>などと訳したりします。
梓弓おしてはる雨今日降りぬ明日さへ降らば若菜摘みてむ (古今)
< ――明日も降れば、きっと若菜を摘めるだろう。>
潮満ちぬ。風も吹きぬべし。(土佐)
<潮が満ちた。風もきっと吹くだろう。>
古文のコツ★強意の「つ・ぬ」
「つ・ぬ」の直後に推量の助動詞「む・らむ・べし」などが付いて、「てむ・なむ・つらむ・ぬらむ・つべし・ぬべし」などの形になる場合、「つ・ぬ」は強意の意味。
もっと知る◆「つ・ぬ」の並列の意味
「つ」「ぬ」の中世(鎌倉時代~)以後の用法として、「~つ~つ」「~ぬ~ぬ」の形で並列(~たり~たり)をあらわすことがあります。この場合の「つ」「ぬ」は終止形です。
○ 僧都乗っては降りつ、降りては乗つつ (平家)
<僧都は乗っては降りたり、降りては乗ったりして>
○ 泣きぬ笑ひぬぞしたまひける。(平家)
<泣いたり笑ったりなさった。>
「つ」は、動詞の下二段活用と同じような活用をします。
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