「たり」「り」は、「つ」「ぬ」と同じく、動作・作用の完了(~た・~てしまう・~てしまった)をあらわす助動詞です。
【例】よろしう詠みたりと思ふ歌を、人のもとに遣りたるに、返しせぬ。(枕)
<上手に詠んだと思う歌を、人のところに贈ったのに、――。>
【例】五十の春を迎へて、家を出で、世を背けり。(方丈)
<――、出家した。>
「たり」「り」には、完了のほかにもう一つ、存続という意味もあります。存続は、現在も動作や状態が続いていることで、<~ている・~てある>と訳します。
【例】紫だちたる雲の細くたなびきたる。(枕)
<紫がかっている(た)雲が細くたなびいている(のが趣がある)。>
【例】道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。(伊勢)
<道を知っている人もいなくて、――>
「たり」「り」は、その語源からして、完了よりもむしろ存続が基本的な意味であると考えられます。この点において、同じ完了の助動詞としてくくられる「つ」「ぬ」とは意味が違っています。
もっと知る◆「たり・り」の語源
「たり」は、接続助詞「て」+ラ変動詞「あり」という形が変化してできた語です。
て+あり=てあり(teari)→たり(tari)
また、「り」は、動詞の連用形にラ変動詞「あり」がついた形が変化して、それから独立してできた語です。
咲き+あり=咲きあり(sakiari)→咲けり(sakeri)→咲け+り
「たり」「り」の基本的な意味が存続であることや、活用が「あり」と同じラ変型であることは、このような成り立ちを由来としています。
また、「たり」が連用形接続であるのは、接続助詞「て」が連用形に付くからであり、「り」が四段・サ変動詞のエ段の活用語尾に付くのも、上のような成り立ちから理解することができます。
ある文中の「たり」「り」が完了と存続のどちらの意味であるかが問題となりますが、実際には完了と存続のどちらの意味にもとれる場合も多く、厳密に区別することはできません。(上にあげた「紫だちたる雲の―」の例文がそのような例です。)
そこで、「たり」「り」は基本的には存続の意味であることに鑑みて、とりあえず存続の意味で解釈することを優先し、存続だと不自然になるような場合にだけ完了をあらわすと考えるとよいでしょう。
つまり、<~ている・~てある>と訳するほうが文の内容により適しているのであれば存続の意味で、そうでなければ完了の意味であると判断します。
もっと知る◆「たり」の並列の意味
「たり」の中世(鎌倉時代~)以後の用法として、「~たり~たり」の形で並列(~たり~たり)をあらわすことがあります。
○ 掃いたり、拭うたり、塵拾ひ (平家)
<掃いたり、拭いたり、――>
「たり」「り」は、ともに動詞のラ変と同じような活用をします。(上の「たり・り」の語源」を参照。)
ラ変の活用のしかたと、「たり」「り」がラ変型の活用であることを覚えてさえおけば足りるでしょう。
「たり」は、動詞や動詞型の活用をする助動詞の連用形に付きます(上の「たり・りの語源」を参照)。
完了の助動詞のうち、「り」だけは他の三つと異なり、特殊な接続のしかたをします。
すなわち、「り」は、サ変動詞の未然形かまたは四段動詞の已然形に付きます(上の「たり・りの語源」を参照)。
たとえば、「書く」という四段動詞について、「たり」が付くときはその連用形に付いて「書きたり」となりますが、「り」が付くときはその已然形に付いて「書けり」となります。
四段動詞の已然形ではなくて命令形に付くと説明されることも多くあります。厳密に言えば命令形接続と考えるほうが正しいのですが、四段の命令形と已然形とは同形であるので、どちらでもよいと考えられています。
「り」の接続は、サ変動詞未然形・四段動詞已然形=「サ未・四已」=「さみしい」と覚えておくとよいでしょう。
古文のコツ★「り」の接続
「り」の接続は、「サ未・四已」=「さみしい」と覚える。
・名前(ご自身以外の人や会社)、住所、学校名、メールアドレス、電話番号などの個人情報を書き込まないでください。
・管理人がサイトの趣旨にそぐわないと判断したコメントは削除します。
・コメント数が50以上に達した後、しばらく経過した時点でコメントをすべて削除します。削除したコメントは保存しません。
コメントをお書きください